スタジオを借りる前に知っておきたい失敗しない選び方|用途別に必要な設備・料金目安まで解説
スタジオを借りるときは、立地や広さだけで判断すると目的に合わず、撮影や配信の品質が十分に出せないことがあります。特に動画撮影・オンライン配信では、防音性能や回線品質、照明環境、背景素材など、実際の収録に影響する要素が多く、料金の目安も用途ごとに異なります。
本記事では、撮影・収録・ライブ配信を念頭に置きながら、スタジオ選びで確認したいポイントと必要なスペックを整理し、失敗しやすい注意点を解説します。
目次
スタジオを借りる前に利用目的を整理する
何を撮る/何を配信するのか
そもそも考えるべきは、「何を撮るのか」「どのように配信するのか」という目的の明確化です。撮影内容によって必要な環境は異なります。
・静止画撮影
照明の位置調整や影の出方、背景の色味が仕上がりを左右します。白ホリゾント(背景が白くなめらか)などの均一な背景を使うことで、被写体を際立たせることができます。
・動画収録
映像の安定性に加えて音声品質が重要です。外音が入りやすいスタジオでは、どんなに映像がきれいでも完成度が下がってしまいます。
・ライブ配信
さらに要件が増え、回線の上り速度と安定性、有線LANの有無、配信用機材の設置スペース、電源容量などが品質を左右します。単に「撮影できる場所」ではなく、「配信を支えられるインフラが整っているか」を基準に選びます。
複数の目的を兼ねる場合(たとえば「撮影+配信」「配信+トークイベント」など)は、控室や機材置き場、出演者導線の確保など、運営上の動きも含めて検討が必要です。
必要な画角・画面構成から逆算する考え方
スタジオ選びは、「撮りたい画」から逆算して、検討することが基本です。
①画面構成の逆算
画面構成を決めるうえで、まず以下が最重要になります。
・単独か複数人か(必要な横幅・奥行きが変わる)
・立ち撮影か座り撮影か(必要な高さ・照明位置が変わる)
・カメラの“引きしろ”が確保できるか(その構図が物理的に撮れるか)
② 奥行き・背景・照明といった画づくりの要素
次に、画づくりに必要な空間条件を確認します。
・背景をぼかす場合に必要な奥行きがあるか
・被写体と背景の距離が取れるか
・照明の配置スペースがあるか
・天井高は十分か(照明が入るか)
こうした条件が整っていると、背景づくりや照明配置が成立し、撮りたい構図に近づけやすくなります。
スタジオ選びの判断軸

スタジオ選びを失敗しないために、特に重要となる判断軸を順に解説します。
音響品質
動画撮影で音声を同時に収録する場合、スタジオの音響品質は最優先の確認事項です。
外部の騒音が聞こえる環境や、室内の反響が強い空間では、収録後の編集で補正しきれません。特にインタビューや対談形式の収録では、わずかな生活音や空調音でも仕上がりに影響します。
防音性能だけでなく、吸音性能も重要です。どちらも整っていない場合、音声のクリアさが保てず、商用品質の収録には不向きです。
撮影時に音声も同時に録音したい場合は、「外音が入らないか」「空調や換気の音はどの程度か」「室内の反響が強すぎないか」を事前に確認しましょう。
空間の独立性
スタジオが「完全貸切」か「共有スペース」かによって、撮影の安定性は変わります。
共有型のレンタルスペースでは、通路の足音や、隣接スペースの会話がマイクに入りやすく、ガラス越しに人が行き来している空間などは、映り込みや撮影の中断につながることもあります。
特に配信や企業案件では、外部からの視線や雑音が入らない独立空間が理想的です。
「隣室との距離」「同時間帯の利用状況」「導線管理」などを確認し、撮影に集中できる環境かどうかを判断しましょう。
設備・機材
スタジオにどの程度の設備が整っているかは、準備コストに直結します。
以下のポイントを事前に確認しましょう。
・カメラ・マイク・照明などのレンタル可否
・レンタル時の追加料金の有無
・機材持ち込みの可否・制限
・レンタル機材のデータ受け渡し方法(持参SSD/SDカードが必要かなど)
背景合成を行う場合は、グリーンバックの有無・サイズ・照明条件 も必須の項目です。
配信用途では、ネット回線の安定性が最重要です。有線LANの利用可否、上り速度の実測値、Wi-Fiの周波数帯(5GHz対応)などを確認し、想定する配信品質を担保できるかどうかを判断します。
控室・メイクスペース
出演者がいる撮影や、企業の対談・インタビュー収録では、控室やメイクスペースが必要です。特に女性出演者やタレント、VIPを招く場合は、着替えやメイク直しが必要になるケースがあり、撮影スペースと物理的に分離された部屋が望ましく、プライバシーの確保が必須です。
控室は荷物置き場としても機能するため、広さや空調の効き具合、鏡の有無、椅子やテーブルの配置なども確認ポイントです。また、出演者の動線がスムーズかどうかも、現場のオペレーションに影響します。
アクセス・搬入導線(機材持ち込み時の重要ポイント)
スタジオまでのアクセスや搬入導線は、想像以上に現場の負荷になります。照明・カメラ・モニターなど機材を持ち込む場合は、下記ポイントを必ず確認しましょう。
・駐車場の有無、スタジオまでの距離
・エレベーターの有無・サイズ(機材が入るか)
・搬入経路の階段や段差・狭い通路の有無
・建物の搬入ルール(大型機材は時間帯制限があることも)
・駅からの距離(出演者・スタッフが多い場合ほど重要)
搬入ストレスが大きいと撮影準備に影響が出るため、 機材量が多い現場では「アクセス」も判断軸に入れて選ぶことが大切です。
商用利用・企業利用の場合に発生しやすい追加要件
企業案件では、個人利用では見落としがちな要件が発生します。スタジオ選びの段階で、以下のポイントもあわせて確認します。
■ 商用利用の可否
・販促動画・研修素材など商用目的で使う場合、追加料金が発生するケースがある
・権利処理(背景素材・音源・出演者肖像権)の範囲が変わることがある
■ 請求書・支払い条件
・法人名義での請求書発行
・後払い対応の可否
・クレジットカード利用の可否
企業案件では、制作現場の要件だけでなく、経理フローまでスムーズに運べるかどうかがトラブル防止のポイントになります。
料金の目安と実際のコスト感
用途別・時間別の料金目安
まず把握したいのは、「用途」「時間帯」「広さ」による料金の相場です。
少人数・短時間の撮影であれば、都心部でも1時間あたり数千円台から利用できるスタジオがあります。一方で、照明・背景セット・配信設備を含む本格的な撮影/配信用途や、企業案件での貸切利用になると、1日(6〜10時間)で数万円〜数十万円規模になるケースもあります。
東京23区内の貸スタジオでも、
・簡易撮影向け:1時間あたり数千円台〜
・高仕様・配信向け:1日契約で数十万円規模も
が一般的な価格帯です。
このような“用途別・時間別の相場感”を把握しておくと、見積もり時に「この金額は妥当か」を判断しやすくなります。
設備・時間帯・撮影規模で変わる価格の幅
料金は“単なる時刻×時間”ではなく、設備の充実度・時間帯・撮影規模によっても変動します。例えば、深夜帯や土日祝日の利用では料金が割増設定されているスタジオが多く、早朝や平日昼間なら料金が抑えられるケースがあります。
また、白ホリゾント・グリーンバック・大型セット・照明設備・控室ありという高仕様スタジオでは、同じ1時間でも設備が簡易なスタジオの数倍の料金になることがあります。
撮影規模が大きい、出演者が多い、機材を大量に持ち込むという条件が加わると、スタジオ側も「オペレーションコスト」や「リスク管理」を価格に反映させます。
したがって、料金表だけではなく「その金額でどの程度の設備・サービスが含まれているか」を確認すべきです。
追加費用の盲点(照明/延長/電源容量/スタッフ同席)
「この金額だと思っていたら違った」という失敗の多くは、追加費用の見落としです。
特に、以下は“見落としがちな追加費用”です。
・電源容量超過料、電気使用料金 (スタジオ常設の照明を使用する場合でも、発生するケースあり)
・控室・メイクルームの利用料(別料金のスタジオが多い)
・椅子、机、モニター、ホワイトボードなどの備品レンタル料
・延長利用の割増料金
・スタッフ同席費用(立会い必須のスタジオもある)
・キャンセルポリシー(直前キャンセルで全額発生する例も)
“盲点”が重なった結果、当初見込んでいた費用の1.2〜1.5倍になる例もあります。これらを事前に確認しておくことで、見積もりとの差異や想定外の請求を防ぎやすくなります。
用途別スタジオ選びチェックリスト

以下、用途別に“何を確認すべきか”をまとめたチェックリストです。スタジオ選びの最終チェックに役立ててください。
撮影向けチェック
静止画・動画撮影では「光・音・空間」を中心に確認します。撮り直しが難しい案件ほど、事前チェックの精度が品質を左右します。
光
・自然光の入り方(時間帯・方向・安定性)は確認済みか
・常設照明の色温度は用途に合うか(昼光色/電球色)
・照明の位置や高さを自由に調整できるか
・補助照明の持ち込みが可能か、電源容量は足りるか
音
・外音(通行音・隣室・空調音)がマイクに入らないか
・室内の反響が強すぎないか(吸音材の有無)
空間
・天井高は2.8〜3m以上あるか(ライティングの自由度)
・背景が用途に合うか(白壁・木目・シンプル背景など)
・画角を確保できるだけの奥行きと広さがあるか
・機材を安全に設置できる床材・スペースがあるか
配信用チェック
オンライン配信は「回線の安定性」が映像・音声以上に重要です。
速度より“揺れ幅”と“有線可否”を優先してチェックします。
ネットワーク
・有線LANが利用できるか
・上り速度の実測値を確認したか(20Mbps以上が理想)
・Wi-Fiのみの場合、5GHz帯が利用できるか
・同時間帯に他の配信が重なる可能性はないか
機材
・配信卓・スイッチャー・モニターの設置スペースは十分か
・ケーブル導線が確保できるか、つまずきリスクがないか
・電源口数と容量が足りるか
照明
・顔が暗くならないように正面・サイドのライトを置けるか
・影や背景ムラが出ない配置が組めるか
企業利用・対談向けチェック
企業の対談撮影・取材・採用動画などは「背景の印象」と「静音性」が仕上がりに直結します。
背景
・背景の質感はブランドイメージと合っているか
・背景の奥行きが取れ、立体感のある画が作れるか
・不要な掲示物や生活感のあるものが映り込まないか
静音性
・空調音や換気音が収録に影響しないか
・共有スペースや隣室の声が聞こえないか
・建物の構造音(上階の足音・外の車音)を確認したか
動線
・出演者が移動しやすい導線や控室が確保できるか
・荷物置き場が十分にあるか
・メイク直しや衣装調整用のスペースはあるか
【まとめ】失敗しないスタジオ選びのために押さえるべきポイント
スタジオ選びを成功させるためのカギは、
「目的の明確化」→「画角・音・配信条件の逆算」→「料金・追加費用の把握」
という順番で検討することです。
スタジオは「広い・きれい」だけでは品質を担保できず、
目的に合う環境を選べるかどうかが、撮影・配信の成功を左右します。
記事で紹介した判断軸とチェックリストを活用しながら、 現場でのトラブルを防ぎ、安定したクオリティを実現できるスタジオを選んでください。
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監修者プロフィール
野本 彩乃(のもと あやの)
株式会社フロンティアチャンネル 代表取締役
音楽クリエイター、アナウンサー、イベントディレクターを経て、2015年に制作会社「株式会社フロンティアチャンネル」を創業。ライブ配信事業では、官公庁・公共団体・大手企業のウェビナーや配信を数多く支援。音楽・音声・映像制作から配信運用、独自のITツール開発まで、幅広いクリエイティブを手がける。「世に残るコンテンツを創る」を信念に、現場視点とクリエイティブを融合させた運営支援を行っている。